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曲解説〜川畠なりみち自らの言葉で〜c

J.S.バッハ Johann Sebastian Bach(1685-1750)

無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番 ホ長調 作品1006

Partita No. 3 in E major, BWV 1006

J.S.バッハ Johann Sebastian Bach(1685-1750)

バッハの音楽ほど、時代によってその演奏解釈が変わるものは少ないのではないだろうか。ここ数年だけをみても、私が初めてバッハの音楽にふれた頃はまだ校訂版の楽譜が多く使われ、解釈もより器楽的なものだったと思う。現在では、原典版の研究も進み表現的にもバッハの時代のそれに近づこうとする傾向があるようだ。ただし、いつの時代にも共通していることは、自己の取り込んだ演奏解釈を昇華し、いかに説得力のある表現を生み出すかということであろう。

パルティータ第3番の誕生は1720年、バッハ35才、いわゆるケーテン時代である。この頃バッハは、宮廷楽長として音楽好きの君主レオポルト候を喜ばせるべく多くの作品を書いている。この曲の特徴は、何と言っても第1曲プレリュードであろう。このような無窮動的な楽曲は通常作品の終盤に配置されることが多いが、ここでは冒頭に置かれている。その後はフランス管弦楽組曲を連想させる曲が続く。

演奏に際してはホ短調というヴァイオリンでは特に輝かしい響きを持つ調性(ホ長調の主音はヴァイオリンの第1番線の開放弦)を考えて、舞曲の優雅さを強調した表現を心がけたい。

H.W.エルンスト Heinrich Wilhelm Ernst(1814-1865)

夏の名残りのバラ(庭の千草)

The Last Rose of Summer

H.W.エルンスト Heinrich Wilhelm Ernst(1814-1865)

この曲は素朴なアイルランドの伝統的なメロディーに、詩人トーマス・ムーアが夏の終わりに寂しく残った一本のバラの花にたとえて、人は皆、人々の支えがなければ生きる意味がないという詩を書いて世界中に広まったそうだ。“庭の千草”として日本でもよく口ずさまれる原曲を用いて、エルンストによって作曲されたが、彼はヴァイオリンの名手だったとはいえ、信じられない程の技巧を駆使し、パガニーニの曲より数段技巧的に難しくなっていると思う。

現在のチェコに生まれたエルンストは、死の前10年間ロンドンに住んでいて、これは晩年に作られたにもかかわらず、素朴さの中にも原曲とは趣をかえた力強さも感じられるのは、救われる思いがする。

玉木宏樹(1943-2012)

サクラ変奏曲

Sakura Variation

玉木宏樹(1943-2012)編曲 arranged by H.Tamaki

日本古謡として古くから親しまれ、おそらくは海外でも最もよく知られた日本音楽であろうこの曲を、洋楽器であるヴァイオリンで演奏したいという欲求にかられ、作曲家玉木宏樹さんに依頼し書いて頂いたものが、このサクラ変奏曲である。日本音階を用いたこの作品を奏するにあたり、私はファの音を西洋音階のそれに比べやや低めにとるよう心がけている。琴をイメージさせるピチカート奏法や、それに続く分散和音を駆使したヴァリエーションなど、魅力的かつ技術的にはかなり高度な作品である。

E.イザイ Eugène-Auguste Ysaÿe(1858-1931)

無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番 イ短調

Sonata No. 2 from 6 Sonatas for solo violin, Op. 27

E.イザイ Eugène-Auguste Ysaÿe(1858-1931)

イザイはベルギーの偉大なヴァイオリニストとして、また作曲家、教師、指揮者としてもその名を知られた。有名なフランクのソナタはイザイに捧げられている。また美しいショーソンの詩曲もイザイに捧げられている。

この無伴奏ソナタは6曲の内の第2番目で、ヴァイオリニスト、ティポーに献呈された。この曲全体を通して、数百年もの間、修道院で歌い継がれて来た単声の素朴な旋律であるグレゴリア聖歌を「怒りの日」として循環楽想に用いられている。

第1楽章の初めにはバッハの無伴奏ソナタ(パルティータ第3番、前奏曲)を使ってイザイ自身の演奏スタイルを示すためのヴィルトーゾ作品にしている。

第2楽章は最後にベルリオーズの「幻想交響曲」にも使われているグレゴリオ聖歌が余韻を残すように終わる。

第3楽章では「怒りの日」の旋律がスケールの大きい6つの変奏曲として増大されて行く。

第4楽章は重音を使った情熱的な曲となっている。フュリとはローマ神話の中に出て来る復讐を司る3人の女神のことである。曲全体を通してバッハの崇高な音楽に対してある種の挑戦とも受け取れるヴァイオリンの技術、とりわけ演奏家としてのセンスを織り込んだヴィルトーゾへと導いているようにも思う。

無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番「バラード」ニ短調

Sonata No. 3 from 6 Sonatas for solo violin, Op. 27

E.イザイ Eugène-Auguste Ysaÿe(1858-1931)

イザイはベルギーが生んだ大ヴァイオリニストである。また作曲家、教師、指揮者としてもその名を知られた。イザイに献呈された作品は数多いが、有名なフランクのピアノとヴァイオリンのためのソナタ イ長調や、サン=サーンスヴァイオリンコンチェルト第3番もイザイに捧げられている。

さて、この無伴奏ソナタは全6曲の内の第3番目で単一楽章である。第1番、第2番はバッハの崇高な音楽に対してのある種の挑戦とも受け取れる作品となっているが、この3番「バラード」からは、完全にイザイ独自の世界を生み出している。ルーマニアのヴァイオリニストで作曲家のエネスコに献呈された。ゆるやかなテンポで始まり、即興的なフレーズと共に、ヴァイオリンの機能を知り尽くした技巧的な効果も駆使され、多彩な表現で、幻想的に情熱的に歌い上げて行く。

ヴァイオリン奏者にとって知性ゆたかなイザイの無伴奏ソナタは憧れの的であり、技術的にも音楽的にも起伏に富んだ内容になっている。そのうち学生時代から弾いて来た全6曲を演奏できる機会があればと思う。